老後の財産管理(老親の認知症対策)の方法として、「家族信託」の活用は広く知られています。
実は、老後の財産管理の方法には、「家族信託」以外にもさまざまな方法があり、「サブリース契約(一括借上げ契約)」もその一つです。
そこで今回は、「サブリース契約(一括借上げ契約)」とはどんな制度で、老親の認知症対策として本当に活用できるのか、「家族信託」との違いもあわせて簡単に紹介します。
サブリース契約(一括借上げ契約)とは?
サブリースとは、英単語としては「また貸し」や「転貸」を意味しますが、不動産業界では収益不動産の転貸を目的とした“一括借上げ”の仕組みを意味します。
典型的な例としては、転貸人(サブリース業者)がアパートオーナーから建物一棟をまとめて借り上げ、各部屋の賃借人に対して転貸することで、実質的に転貸人がアパート経営を担う仕組みです。
サブリース契約も老親の認知症対策になる!?
アパート等の収益不動産をその所有者に代わって実質的に賃貸経営を担う転貸人は、サブリース業者、具体的にはハウスメーカー系又は独立系の不動産管理会社であることが一般的です。
しかし、この転貸人は法律上の制約がある訳ではありませんので、専門の不動産管理会社でなくとも、同族会社はもちろん、不動産所有者の長男や長女など個人を転貸人にすることも自由です。
つまり、高齢の不動産オーナー(親)から子が一括借上げをすることにより、実際の不動産賃貸経営を転貸人たる子が担うことができるようになる点で老親のアパート経営の認知症対策になり得ると言えます。
家族信託とサブリース契約との違い
アパート経営者である老親の認知症対策としては、「家族信託」が最も万全な施策として広く認識をされてきておりますが、前述のように、サブリース契約も認知症対策としての効果を出すことが可能です。
それでは、家族信託とサブリースにはどのような違いがあるのでしょうか。
1. 賃貸トラブルにはどちらも対応可能
平常時の不動産賃貸経営、具体的には新規の賃貸借契約の締結、更新契約の締結、賃借人の退去時の敷金の精算・返還などについては、家族信託の受託者も、サブリースの転貸人も、どちらも不動産オーナーの健康状態・判断能力に影響を受けない万全の対応が可能となります。
また、アパートの各戸において、賃借人の退去に伴いルームクリーニング・修繕・リフォームをする場合においても、家族信託とサブリースでは実質的に違いはほとんどありません。
さらに、賃借人の家賃滞納に伴う請求や退去・明渡の請求に関する法的処置(訴訟提起)についても、受託者・転借人のどちらも合法的に対応可能です。
2. 賃貸物件の大規模修繕の場面における違い
アパートの各戸における修繕等は、前述の通り家族信託・サブリースの違いは生じません。
その一方で、賃貸物件全体における大規模修繕の場合には違いが生じます。
家族信託の受託者は、一般的に賃貸建物全体について所有者と同じように管理・処分の権限が与えられていますので、信託財産として管理している金銭(信託金銭)をもって、外壁塗装、屋根の付替え・防水工事などは当然に行うことができます。
一方のサブリース契約の転貸人は、一棟丸ごと借り上げしているとはいえ、各戸の転貸権限とそれに伴う修繕権限等があるだけで、建物の躯体などの大規模修繕工事は、引き続き建物所有者でないとできないのが通常です。
したがいまして、高齢の不動産オーナーが認知症等で判断能力が低下すると、大規模修繕などの工事はできなくなるリスクが残ることになります。
3. 賃貸物件の建替え・解体・売却の場面における違い
前述の通り、サブリース契約の転貸人は、賃貸物件全体に対しての管理処分権限がある訳ではないので、賃貸物件の建替え・解体・売却をしたい場面では、全く対応できません。
したがいまして、中長期的な視点で見たときに、高齢の不動産オーナーの賃貸経営において、老親の存命中に建替え・解体・売却等の選択肢を確保しておきたいのであれば、サブリースではなく、家族信託の契約を実行しておくことが必要になります。
上記を踏まえまして、家族信託とサブリースは、不動産賃貸経営における将来的な展望・希望を考慮の上使い分けることが必要となります。
まずはこの分野に精通した司法書士等の法律専門職にお気軽にご相談されることをお勧めします。
以上、今回は、サブリース契約(一括借上げ契約)も老親の不動産賃貸経営の認知症対策として活用し得ること、家族信託との違いもあわせて簡単に紹介しました。
老後の財産管理の方法(老親の認知症対策・老い支度・終活)としては、今回紹介したサブリースや家族信託以外にもさまざま存在します。
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