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家族信託を含めた「認知症対策」や「相続対策」の相談をどこにすべきか?

6月 17, 2021

超高齢社会において、老親の認知症による判断能力の喪失リスクを踏まえた財産管理・生活サポート・資産凍結とその先の資産承継の問題は、どの家族も直面し得る深刻なテーマです。そこには、空き家問題や遺産相続争い、共有不動産を巡るトラブル、負動産・腐動産リスクの問題も絡み、多種多様かつ複雑な悩みとなっています。
これらの問題を未然に防ぐための対策をどう講じるかという相談を誰にすべきは、どういう対策を講じるかという点以上に実は大きなテーマといえます。
相談相手を間違えれば、実行すべき施策やそのためのプロセスを踏み間違えることになり、それにより無駄なコストがかさむだけではなく、法的・税務的に大きな損失を生みかねませんし、老親の体調次第では対策のやり直しがきかない重大な失策になりかねません。

以上を踏まえまして、本稿では、代表的な相談相手ごとに相談する際の注意点について解説します。

 

弁護士・司法書士・税理士に相談する際の注意点

家族信託や相続など法律に絡む相談だから、弁護士に相談すれば大丈夫、という訳にはいかないのが実状です。
弁護士だから家族信託を含め法律のことなら何でも知っているというのは大きな誤解で、お医者さんの世界と同様、弁護士にも専門分野があります。
上場企業を顧問先として経営リスクに対応する弁護士、特許などの知的財産権を取り扱う弁護士、外国企業との折衝が得意な渉外弁護士、相続や離婚等の個人にまつわる法律を主に扱う弁護士など、弁護士の専門分野も多岐にわたりますので、弁護士だから法律のことなら何でも相談できるというのではミスマッチが起こり得ます。

これは、司法書士の業界にも言えることで、不動産の売買取引をメインで扱う司法書士 、企業・法人の登記手続きを得意とする司法書士、もっぱら成年後見業務を行っている司法書士など様々です。
税理士の業界も同様です。企業の税務顧問となり法人税の申告をメインとする税理士は多いですが、いわゆる“資産税”(相続税の申告業務や相続税・所得税の節税対策)を得意とする税理士はそれほど多くありません。「相続専門」を売りにしている税理士がいるということは、相続に弱い税理士が多いということの裏返しといえます。

家族信託や相続などの問題を相談する際には、その専門職の専門分野(得意分野)やその分野における実績等を必ず確認することをお勧めします

 

大手の法律専門職法人に相談する際の注意点

大きな法律専門職法人(例えば主要都市にいくつもの支店を持つ司法書士法人や税理士法人など)なら相談先として大丈夫かというと、それも一概には言い切れません。
大きな組織だろうと何だろうと、最終的には各々の相談に対応する担当者次第という面が大きいので、その担当する専門職が家族信託や成年後見制度、相続法、相続税務に精通しているかどうかが全てです。
ブランディングに成功した大きな組織であっても、実際の担当者の実務スキル・コミニュケーションスキルによるところが大きいのが現実です。

正式に依頼を受任するまでの営業担当と正式受任後の実務担当が違うようなところは要注意です。
効率重視の分業制のビジネスモデルで、家族会議におけるヒアリング・お打合せから各種対策のご提案とその実行まで、一気通貫したサポートサービスの提供という顧客目線が損なわれている可能性があります。

 

専門団体・相談機関に相談する際の注意点

「●●サポート協会」「●●相談センター」「一般社団法人●●」などという名称で、家族信託や相続対策の相談機関として活動をしている団体、特にホームページ上で手広く広告宣伝・営業活動をしている任意団体や法人格を持つ団体があります。

このような団体に相談しようとする場合、その運営母体や代表者(顔写真付き)が明記されているか、相談機関としてしっかりとした法律専門職が関与しているかを確認すべきです。
運営母体も代表者も構成員も明記されていない場合、もし法的に間違ったアドバイスをされたり、提供した個人情報が漏洩した場合に、相談機関としての責任の所在が明らかではないので、相談する側にとって大きなリスクになり得ます。
見方を変えれば、相談機関・法律専門職として全面的に“顔”を出して相談に対応することに自信が無いことの表れともいえるでしょう。

法律専門職が運営母体とならず、不動産業者がそのような組織・法人を立ち上げているケースもあります。
不動産業者が相談機関を立ち上げ運営すること自体は問題ありませんが、そこに法律専門職の関与が薄く、実質的に有料の法律相談を不動産会社の役員や社員が行っているとすれば、弁護士法違反として糾弾されるべき話になります。
弁護士法違反にはならないまでも、相談機関の体裁を取りながら、実際は不動産の管理業務や売買仲介等の依頼を獲得することを主目的とした組織・団体もあると聞きますのでご注意ください。

 

価格(専門職報酬)の安さを売りにしている専門職に相談する際の注意点

家族信託のコンサルティング報酬が定額の金●円、相続登記の手続き報酬が一律金●万円など、廉価な専門職報酬を売りにしている士業事務所があります。
各士業事務所の企業努力で低価格の事業モデルを構築しているところは素晴らしいと思います。

その一方で、“安かろう悪かろう”という士業事務所や民間のコンサルティング会社もあるとも聞きます。
例えば、家族信託の設計コンサルティング業務に関し、家族信託とその周辺業務についての浅い知識しか持たない法律専門職又は資格を持たない補助者が担当者として最初から最後まで対応するケースがあるようです。
親子が一堂に会する「家族会議」を開催することなく、委託者となる老親や受託者となる一部の子だけを相手にお打合せをし、どんな案件であっても(本来であれば、老親の保有財産や収支状況、家族構成、老後や将来への想いが異なれば、家族信託は様々な設計の形が想定されますが)、定型的な信託の設計に無理に当てはめて提案し、処理案件の量産化(実績数の誇示)を図ろうとするケースが多くみられることを危惧します。
老親及び老親を子を含めた家族全体の想い・ニーズをどのように形にし、また将来家族に起こり得るリスクをどのように回避するかは、低価格の定型的な設計では結果として実現できないこともあり得ます。

もう一つの事例として不動産の相続登記業務を取り上げます。
遺言による指定が無い場合に遺産たる不動産を法定相続人全員の協議でどのように承継するかは、将来の不動産の活用方針(売却・建替え・承継の道筋)を踏まえて、「現物分割」か「代償分割」か「換価分割」かを検討することが基本となります。
にもかかわらず、十分な選択肢の検討もせずに安易に兄弟間で共有相続の登記を入れてしまうケースも目にします。
“安かろう悪かろう”の見極めは、なかなか難しいところもありますが、御見積の価格や事業規模、広告宣伝の上手さだけで判断するのはご注意ください。

また、報酬が安いことを謳い文句としておきながら、実はそうではないケースもあります。
家族信託のケースで言うと、入り口のコンサルティング報酬(イニシャルコスト)は、相場よりも極端に安く設定をしておいて、ランニングコストとして、顧問料・サービス料・信託監督人報酬など様々な名目で、毎月定額の報酬が課金される形態です。
それは、実体として専門職報酬を分割払いにしているだけであって、総支出額が必ずしも抑えられている訳ではない可能性があります。
もちろん、支払額の上限が決まっていて、それをお客様側がきちんと理解・納得していれば、何ら問題はありませんし、むしろ新しい事業モデルとして素晴らしいとも言えます。

しかしその一方で、家族信託は老親が亡くなるまで何十年と継続する財産管理の仕組みになり得る中で、信託契約が存続する限り上限なく毎月コストが発生し続ける信託契約も目にします。
しかもお客様側の都合で途中で勝手に辞めることができない契約形態ですと、むしろ総費用は老親の長寿に伴い大幅にかさむリスクが出てきます。
したがいまして、専門職のコンサルティング報酬を含めたイニシャルコストの大小に惑わされずに、家族信託で家族の想いを実現するため、ランニングコストを含めた総コストがどのくらいになるかという全体の見積額をきちんと出してもらい、じっくりと検討することが重要です。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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