遺言書を作成する際には、気を付けなければならない点がいくつもあります。
今回は、その代表格として、「予備的条項(予備的遺言や補充遺言とも言われます)」と「遺言執行者」についてご説明します。
(1)予備的条項について
遺言の中で「〇〇に相続させる(遺贈する)」とした条項については、もし「〇〇」が遺言者よりも先に亡くなっていた場合は、その遺言条項自体の効力が生じません。
もちろん、遺言全体が無効となる訳ではありませんが、その条項自体は無効となりますので、「〇〇に遺す」とした財産についての承継者の指定は無かったことと同じ意味になります。
そうなると、その財産については、法定相続人全員による遺産分割協議の対象財産になってしまうという事態に陥ります。
そこで、「予備的条項」を設け、「もし〇〇が遺言者の死亡以前に死亡していたときは◎◎◎に相続させる(遺贈する)」という規定を置くことを我々法律専門職は推奨しています。
弁護士・司法書士・行政書士等の法律専門職に遺言書作成の相談をする場合は、通常は予備的条項をどうするかの質問や提案がなされるので、見落とすことは無いでしょうが、自分自身で直筆の遺言書を書く(自筆証書遺言の作成をする)場合は、注意が必要です。
また、公証役場で公正証書遺言を作成する場合でも、公証役場は遺言者が用意した文案をもとに公正証書を作成しますので、公証人から「予備的条項はどうしますか?」などの質問・アドバイスを受けるとは限りません。あくまで自分で予備的条項の必要性を理解して、検討することが重要です。
なお、この予備的条項の考え方については、「祭祀の承継者(主宰者)」や後述する「遺言執行者」などにも当てはまりますので、もし亡くなる順番が違った場合や、指定した方がその役割を担えない事態になる可能性も踏まえて、条項を置いておくとより安心です。
(2)遺言執行者の指定について
遺言者が死亡し、遺言の効力が発生した際に、遺言内容を実現するための任務を担う「遺言執行者」を予め遺言の中で指定しておくことも重要です。
不動産を遺言に基づき法定相続人が承継する場合は、遺言執行者を介在することなく、不動産の承継者として指定された相続人が単独で相続登記をすることができます。
一方、預貯金や有価証券等の金融資産の相続手続きや不動産を法定相続人以外の者に承継させる場合(いわゆる「遺贈」の場合)は、遺言執行者がいなければ、次の二つの方法で対応することになります。
まず一つ目は、法定相続人全員に協力してもらう方法です。
金融資産については、各金融機関所定の相続届出書に法定相続人全員の署名及び実印の押印(印鑑証明書の添付も)をもらうことになりますし、不動産については、法定相続人全員が登記関係書類に実印押印と印鑑証明書の添付をすることになります。
せっかく遺言で遺産分配の指定があるのに、法定相続人全員の協力が求められるというのは、遺言内容に納得していない法定相続人がいると金融資産の解約払戻や名義変更手続きが難航する可能性があります。
そこで、二つ目の方法です。
それは、相続発生後に家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立て」を行い、事後的に遺言執行者を付けるという方法です。
この申立てに際しては、予め候補者を立てることができますので、後述します遺言執行者に適した者を申立書に記載をして家庭裁判所の審判を受けることになります。
遺言執行者が就任すると、遺言執行者が単独で金融機関の相続手続きができます。不動産の遺贈の登記も、他の法定相続人の関与を要せず、遺言執行者と受遺者だけですることができます。
以上のように、遺言の中で「遺言執行者」の指定をしておかないだけで、遺される相続人・受遺者の負担・リスクが増えてしまいますので、もうひと手間をかけて、遺言執行者の指定を遺言書の中に盛り込むことをお勧めします。
なお、ここでさらに気を付けるべきは、遺言執行者は、信託銀行や弁護士・司法書士等の専門職である必要はないということです。
遺言執行者は、前述の通り遺言内容を実現するために粛々とする立場になりますが、一般の方がなれない訳ではありません。
例えば、法定相続人のうち、法的な手続きを嫌がらずに対応できる方、平日に金融機関等を回れる方、遺言の中でより多くの遺産をもらう方などを指定するケースが多いです。
それを踏まえた上で、遺される家族に負担をかけたくない、家族が遺言執行業務を担うのが難しいだろうという場合に、司法書士・弁護士・行政書士等の法律専門職を遺言執行者に指定することも良策となります。
なお、法律専門職であれば、誰でも遺言執行業務をスムーズにやってくれるとは限りませんので、実務経験が豊富な法律専門職を指定することをお勧めいたします。