後見制度には大きく「任意後見」と「法定後見」の2種類があり、それぞれの制度上の違い・特色があります。
そこで今回は、任意後見と法定後見の違いについて、使い分ける際の注意点もあわせて簡単に解説します。
【任意後見と法定後見の違いとは?】
「任意後見」とは、本人が元気なうちに、あらかじめ後見人になってほしい個人・法人(親族、法律専門職、NPO法人など)との間で契約(=任意後見契約)をしておき、いざ本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所の手続きを経て契約が発動し、頼んでおいた個人・法人がスムーズに後見人に就任するという成年後見制度の1つの仕組みです。本人が後見人となる人を自由に選べることから「任意」というネーミングになっています。
一方、「法定後見」とは、既に本人の判断能力が低下している場合に、家庭裁判所が後見人を選任するという後見制度の1つの仕組みです。後見人を裁判所が定める(法律に則って定める)から「法定」だとご理解下さい。
つまり、任意後見は「判断能力が十分あるうちに後見人を自分で選んでおく制度」であり、法定後見は「既に判断能力が低下した人の後見人を裁判所が指定する制度」である点で違いがあると言えます。
【任意後見と法定後見の使い分けのポイント】
(1)確実に後見人に就任してもらいたい人がいる場合は「任意後見」
家族間に紛争性がある場合や本人の介護方針等に対立がみられる場合、判断能力が低下した本人に誰を後見人として就けるかという点が争点の一つになります。
例えば、父親の判断能力が低下した場合、将来の遺産が目減りするのを避けたいという観点から、利用料の安い高齢者施設に父親が入居することを推進したい長男がいるとします。一方の長女は、父親の財産なんだから、潤沢にある預金を使ってハイクラスな有料老人ホームに入れてあげたいと考えています。父親としては、老後のサポートは長女に任せたいし、いざとなったらハイクラスな有料老人ホームに入居したいと考えているケース。
この場合、「法定後見」を利用しようとすると、長女が後見人に就任することについて長男から反対意見が出されると、父親が就任を望んでいたとしても、この家族は紛争性アリと判断され、長女は後見人に選任されなくなります(申立ての際に後見人候補者を挙げることはできますが、必ずしもその候補者が後見人として選ばれる訳ではありません)。他方、長男も後見人になることはできず、結果として客観的な第三者である司法書士 ・弁護士等が裁判所から選任されることになります。
つまり、父親本人の希望として、長女に後見人になって老後をサポートしてほしいという想いがあるのであれば、任意後見契約を父親・長女間で交わしておくことにより、ほぼ確実に長女が後見人に就任することができます。
別の角度から言いますと、家族が一枚岩で円満な家族の場合、後見人に誰がなるかについて意思統一がされていれば、わざわざ任意後見契約を交わしておかなくても、法定後見の手続きの中で家族が後見人になることができるでしょう。
(2)同意権・取消権を確保するなら「法定後見」
法定後見人の場合、本人が締結した契約などの法律行為について、同意権・取消権が認められています。
例えば、一般の方の場合、通信販売や訪問販売で購入した物品について、クーリングオフ期間を過ぎたら、契約を取り消すことはできなくなります。
しかし、法定後見人(成年後見人・保佐人・補助人)は、判断能力の低下している者が行った法律行為について、同意するかどうか判断することができます。後見人が同意をすれば、法律行為は確定的に有効になります。ただ、同意できない・すべきではない場合は、本人が行った法律行為を取り消すことができます。この権利を「取消権」と言います。
一方の任意後見人には、この取消権がありません。
つまり、本人が在宅暮らしの場合(入院・入所していない場合)などは、うっかり誰かと不必要な契約(物品購入やリフォーム工事など)を交わしてしまうリスクが有るケースでは、事後的に契約を取り消すという善後策を講じることができる法定後見の方が安心度は高まるかもしれません。
以上、今回は任意後見と法定後見の違いと両者の使い分けの代表的なポイントも簡単に解説しました。
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