商業登記・企業法務

定款規定で簡単にできる経営基盤安定化への工夫

3月 6, 2007

中小企業では、オーナー社長の死亡により遺産相続問題が表面化し、うまく株式を承継できず株主が分散し、会社経営が滞るという問題をよく耳にします。

特に、社長個人が100%出資している中小企業、いわゆる「一人会社」とって、後継者をどうするか、どう上手く遺産相続及び事業承継をできるかは、非常に関心の高い問題でしょう。

また、同族関係者以外からの出資を受けている中小企業にとっては、事業承継の場面に限らず、株主構成や株主比率について常日頃から細心の注意を払わないと、経営方針に関する軋轢など思わぬ経営リスクを負いかねません。

昨年5月の会社法施行により、定款で様々な規定を設けることが可能になり、これにより経営基盤の安定化や事業承継における課題に対応しやすくなりました。

以下に、定款に盛り込むことで簡単にできる経営基盤安定化の代表例をご案内します。

1.相続人等に対する譲渡制限株式の売渡請求(会社法174条)
株主に相続が発生した際、予期していなかった相続人が株主になったり、好ましくない人物が株式の遺贈を受けたりするリスクが存在します。
そこで、定款にこの規定を設けておくことで、株主に相続が発生したことが分かったときから1年以内であれば、株主総会の特別決議で、会社が当該譲渡制限株式を相続等によって取得した相続人に対して売り渡すよう請求することができます。
この制度は、譲渡制限株式であれば、株式の種類に関係なく、また公開会社であってもその株主に対して適用できる非常に便利な制度です。

2.取得条項付(種類)株式(会社法107条1項3号・108条1項6号)
会社は、その発行する全部又は一部の株式の内容として、定款で定める一定の事由が発生したときに、会社が株主の同意なく取得することができる株式を
設けることができます。
既に発行されている株式を取得条項付株式に転換することも可能で、その場合には、株主全員の同意を得ることが必要です。
この制度の活用例としては、役員や従業員に株式を持たせている場合に、退社や死亡の場合には、会社が当該株式を買い取れるようにすることで、株主を現に縁故がある者に限定することができます。

3.議決権制限種類株式(会社法108条1項3号)
会社は、株主総会において、全部又は一部の事項について議決権を行使できない株式を設定することができます。
既に発行されている株式を議決権制限株式に転換することも可能で、その場合には、株主総会の特別決議で足りますので、前項の取得条項付株式に比べ、導入しやすい制度といえます。
議決権を行使できない事項については、当該株式を持つ株主は、少数株主権を行使できないので、重要な決議事項については、株主総会の内外に関わらず口出しされることを防止することができます。

4.拒否権付種類株式(会社法108条1項8号)
会社は、株主総会の決議事項のうち、総会全体での決議の他、当該種類の株主のみで構成される種類株主総会の決議があることを必要とする株式を
設定することができます。
いわゆる「黄金株」と言われ、オーナー社長が当該株式を保有することで、自分の意にそぐわない株主総会決議を無力化し、経営の安定を図ることができます。

5.選解任種類株式(会社法108条1項9号)
会社は、特定の種類の株式を持つ株主が取締役または監査役の選任をすることを認める株式を設定することができます。
この制度を次のように利用することができます。
例えば、創業者がA種類株式を保有し、B種類株式及びC種類株式をそれぞれ外部投資家甲及び乙が保有している場合において、A種類株式の種類株主総会において選任できる取締役を3名とし、B及びC種類株式の種類株主総会において選任できる取締役を1名とすれば、常に創業者の息のかかった取締役が過半数を占めることができ、経営を安定させることができます。

6.株主ごとに異なる取扱いをする定款の定め(会社法109条2項)
譲渡制限会社は、株主平等の原則にかかわらず、株主の権利に関する事項について株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます。
これは、あまり利用されていませんが、上手く利用すれば非常に使い勝手のよい規定とすることができるでしょう。
利用例としては、以下のようなものが挙げられます。

a)剰余金の配当または残余財産の分配を受ける権利を持ち株数に
応ずることなく全株主に同額を配当すること。
b)株主総会における議決権を1株につき1個にするのではなく、
株主1人につき1個与えること。
c)一定数以上の株式を有する株主の株主総会における議決権を
制限すること。
d)一定の地位を有する株主には、1株について2個の議決権を与えること。

 

以上、オーナー社長の経営基盤安定化策を色々とご説明いましたが、そう難しく考える必要はありません。
「今の経営基盤が将来にわたって安定的に永続性をもつこと」を目指し、本気で検討を始めることがその第一歩です。
そうすれば、どんな手段を講じてその実現を図るかは、案外大した問題ではないかもしれません。

貴方の会社の経営基盤安定化策、もうお済ですか?

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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