「受益者代理人」は、遺言又は契約における信託行為において指定される、受益者を代理する者をいいます(信託法第138条)。
受益者代理人は、特定又は特定範囲の受益者に代わって、受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を行使する権限があります。
その反面、誠実且つ公平であること(誠実公平義務)とともに、善良な管理者として権利行使しなければなりません(善管注意義務)。
受益者が多数で迅速かつ適切な意思決定することが困難であることなどが予想される場合に信託行為で定めます。
信託管理人や信託監督人と異なり、信託行為のみによる選任に限られ、信託当事者などの利害関係人により裁判所に申立てても選任することはできません。
また、未成年者(※)及び当該信託の受託者は受益者代理人になることができません。
なお、受益者が認知症などで判断能力を喪失した後でも、この受益者代理人が受益者本人に代わって、受益者の子や孫に暦年贈与できると考えている方がいますが、これは大変危険な考え方です。
受益者代理人は、「その代理する受益者のため」に受益者の権利を行使する権限を有するのであり(信託法139条)、受益者の利益にならないことは受託者と同様、できないし、やるべきではないと考えます。
たとえ、受益者が元気の時に、「自分が死ぬまで毎年暦年贈与を継続してほしい」という希望を持っていたとしても、受益者が意思表示できなくなった後にそれを大儀として、受益者代理人が受益者の財産を減らす行為まで可能とするのであれば、この仕組みを悪用するケースが出ないとも限りません。
そもそも、受益者代理人に受益者に代わって「贈与」という法律行為をする権限が本当にあるのか、怪しいと言わざるを得ません。
法律専門職として、受益者代理人の制度を暦年贈与の半脱法的スキームに活用することはお勧めできません。
(※)「成年後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」の施行を受けて、受託者や受益者代理人、信託監督人、信託管理人の資格制限(欠格事由)から「成年被後見人・被保佐人」が削除されました(信託法第7条・第124条・第137条・第144条)。