『家族信託』という仕組みは、遺言の代用機能として直近の遺産の受取人(1次相続人)の指定だけでなく、その次の相続(2次相続)以降の財産の承継者も指定できる画期的な手法です。この機能を上手に活用することで、“争族対策”を実現できる可能性がある訳ですが、ここでは、そもそも家族信託を「検討すること」自体が、“争族対策”になるというお話をしたいと思います。
遺言との違い
遺言は単独行為、つまり自分一人で勝手に作ることができます。したがって、税理士や司法書士等には相談するけれども、配偶者や子など身近な家族に一切相談せずに作成する方も多く、本人が亡くなってから初めて遺言の内容を知って困惑する相続人は少なくありません。
一方、家族信託は原則単独ではできず、託す相手(「受託者」といい、典型的には子がなります)が存在します。
現在自分がどんな財産を持っていて、それを今後どのように消費又は運用し、最終的に遺産を誰に渡したいか、これらについて受託者となる子に伝えなければ、そもそも最適な家族信託の設計・検討はできません。
また、託す相手が、例えば長男でも、配偶者や他の子には内緒で計画を実行することも好ましくありません。
受託者とならない他の家族全員も参加した話し合いの場(家族会議)で、家族信託という選択肢を含めた方策の検討がとても大切な工程だと言えます。家族信託は、まだ世間一般にはなじみの薄い最先端の手法ですので、家族全員が同じレベルの情報と正しい理解を共有するところが出発点です。
家族会議の効果
相続は、遺す側と遺される側の“想い”が一致するのが理想的であり、両者の想いを擦り合わせる作業が大切です。
その意味で、前述のとおり家族会議の開催を前提とする家族信託は、“想い”を擦り合せる作業が工程に自然に組み込まれることから、その検討段階においても大きな意義があると言えます。
結果として家族信託を実行する(信託契約を締結する)かどうかは大きな問題ではなく、老親が元気なうちに、今後の財産管理とその先の資産承継について家族全員が専門家を交えて話し合うことができれば、“想い”は通じ、“争族”の火種はほぼ解消できることが多いです。
家族で話し合いの場を設ければ、逆に子同士の喧嘩が始まることを心配する方がいます。ただ、そのような家族は、家族会議を開かなくても、将来必ず揉めます。そうであれば、親の目の前で喧嘩をさせ、それを目の当たりにして、「やはり親が決めておくべきだ」という想いに至れば、それもまた争族対策の第一歩になり、危機感・使命感をもって遺言や家族信託を検討頂くことができるでしょう。
≪家族会議をするメリット≫
①老親の今後の希望(終の棲家、財産の消費・運用の方法)を家族で把握し、安心できるサポート体制を構築できる。
②予め老親の介護等を主体的に担う子を決め、それを前提にその子に多めに遺産を渡すことを他の子も納得の上で決められる(等分が公平とは限りません)。
③引き継ぐ側の希望も老親に伝えることで、親の独りよがりの資産承継ではなく、家族が望む形で資産を引き継がせることができる。