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家族信託と成年後見制度は併用が前提か

9月 10, 2018

公証役場の公証人に家族信託と遺言の相談をしたところ、家族信託は、成年後見制度(任意後見)と併用することが前提であると言われた、という話を聞くことがあります。

結論から申し上げますと、家族信託と成年後見制度は、併用を前提に考える必要はありません!

なぜなら、老親本人の判断能力が著しく低下又は喪失した場合であっても、必ずしも成年後見制度を利用しなければならない訳ではないからです。

老親本人の財産管理・財産処分の必要性から、あるいは本人の財産や権利を守るために、必要に応じて必要なタイミングで「成年後見制度」を利用すればよいのであって、判断能力の衰えた方が全員後見制度を使う必要はありません。

むしろ認知症患者が2025年には約700万人に上ると推定される中で、みんなが成年後見制度を利用すれば、家庭裁判所はパンクし、成年後見制度は崩壊することは目に見えています。

つまり、実務においては、老後の備えが万全にできなかった方でやむを得ないケースにおいては成年後見制度を利用し、事前に備えをすることができる方は、家族信託等の負担の少ない仕組みを駆使して、負担や制約のある成年後見制度を使わないで、軽負担で長期にわたる親の老後を支えきるということを目指すべきだと考えます。

1.将来に備えるという意味で、家族信託ではなく任意後見はどうか?

老親が元気なうちに、将来の財産管理や生活サポートを信頼できる子に頼んでおくという意味では、任意後見契約は家族信託の契約と似たようなイメージが持てます。
また、任意後見制度においては、法定後見制度と違い、自宅(「居住用財産」と言います)の処分につき、家庭裁判所や任意後見監督人の許可・同意は必要なく、任意後見人の判断で売却が可能です。
この点においても、任意後見は柔軟性があるので、わざわざ家族信託という聞きなれない仕組みを使わなくても十分に対応できるという主張をされる一部の公証人や法律専門職がいます。

監督下におかれて、負担・制約がある任意後見よりも、家族信託の方が軽負担で柔軟性がある

しかし、実際のところ、現預金が潤沢にあるにもかかわらず、任意後見人が老親本人(被後見人)の自宅を売却処分することは、任意後見監督人への定期報告(事後報告)の際に、自宅売却の合理的な理由について説明を求められるでしょう。
そこで、自宅売却が被後見人のためではなく、将来の被後見人の相続に向けた財産整理をしていると判断されれば、任意後見監督人や家庭裁判所から管理業務の正当性・任意後見人の適正を問われる可能性はありますし、最悪の場合は、後見人を交代せざるを得ない事態になりかねません。
(なお、自宅売却後の代金をもって、被後見人が住まない自宅や賃貸住宅を建てたり買ったりすることはできませんので、そもそも現預金が潤沢にある場合に、自宅を売るという決断をする任意後見人の方はあまりいないと考えます。)

結局のところ、家裁の許可はなくても事後的に厳格なチェックをされるという点においては、法定後見の取り扱いとあまり変わりがありません。
つまり、任意後見も成年後見制度の一つですので、家庭裁判所・任後見監督人の監督下におかれて、後述する3つの負担・制約がある任意後見よりも、家族信託の方が軽負担で柔軟性があると言えます。

実務上、任意後見も含め、「成年後見制度」を利用することは、国の制度である以上、下記1〜3の負担・制約を甘んじて受けることになります。

成年後見制度の3つの負担・制約

  1. ご家族の事務負担(財産目録・収支の資料の整理・保管、家裁や後見監督人への定期報告など)
  2. 経済的負担(=後見監督人報酬)
  3. 財産処分への制約(=財産の処分や組換え、資産運用ができない)

これらの負担が悪いのではなく、国の制度である以上、やむを得ない負担と言えますが、この3つの負担・制約がご家族にとっては、足かせになり、大きなリスクや“三重苦”になりかねません。

したがいまして、老親の家族信託で財産管理と生活サポートを盤石にしておけば、家族の立場で入院・入所手続きや介護プランの策定など(いわゆる、「身上監護」「身上保護」の部分)はまかなえますので、敢えて任意後見契約まで締結しておかなくても良いケースは多いと言えます。

2.家族信託をしつつ、任意後見契約も締結すべき場合は?

前述のとおり、老親の財産の管理処分権限を子がしっかりともらっておけば、認知症や大病・事故等で親の資産が“凍結”されずに済みますし、身上監護の権限は、後見人でなくとも家族として行使が可能となります。

それでは、どのようなケースで、家族信託と任意後見を併用すべきでしょうか。
典型的なケースとして、2つご紹介したいと思います。

ケース1.老親の兄弟姉妹(オジ・オバ)の相続に巻き込まれるリスクがある場合

独身や結婚はしているけれども子のいないオジ・オバがいる場合、遺言を書かずにその方が亡くなれば、法定相続人として老親が巻き込まれることになります。
その時点で、老親の判断能力が喪失していれば、せっかく老親自身の財産管理は家族信託で長男に託し万全にしていたとしても、遺産分割協議のために老親に成年後見人を就けなければならない事態が起きます。

この不測の事態にも、スムーズに長男が後見人として対応できるように、長男との間で任意後見契約を交わしておくことが良策となるでしょう。

ケース2.家族内において老親の介護方針等で紛争が生じるリスクがある場合

財産管理は、家族信託で長男に任せたとしても、老親の介護方針(どのランクの介護施設に入所してもらうか等)について家族内(長男以外の他の兄弟との間)で紛糾する場合には、身上監護権(入所先の決定し入所契約を締結する権限など)を行使できる成年後見人を就ける必要がでてくるケースがあります。
このようなケースで、確実に長男が後見人に就任して身上監護権が行使できるように、長男との間で任意後見契約を交わしておくことが良策となるでしょう。

3.まとめ

成年後見制度、特に「任意後見契約」については、不測の事態・トラブルに備えて(ある意味“保険”として)、いざという時に困らないように締結しておくことは良策となります。

その一方で、必ずしも任意後見契約は発動しなくても良いものですので、家族信託だけで対応し、任意後見は極力利用しないで乗り切ることを目指すのもよろしいかと思います。

これらの判断は、ご家族だけのお話合いでは、なかなか検討できない・決められないものですので、是非、家族信託や任意後見の実務に精通した法律専門職を交えて、「家族会議」の中でご検討いただきたいです。

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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