2019年6月19日の日本経済新聞の記事によると、政府は今月18日、認知症対策を強化するため、2025年までの施策を盛り込んだ新たな大綱を関係閣僚会議で決定した、とのこと。
認知症の発症や進行を遅らせる「予防」と、認知症の人が暮らしやすい社会を目指す「共生」という2本の柱を目標に掲げ、認知症の人と家族の視点を重視しながら、増大する社会的コストの抑制も目指す。
大綱の中には、成年後見制度の利用を促進するため全市区町村に調整機関を新設することなども盛り込まれているという。
団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年には、認知症の人は約730万人に達し、高齢者の5人に1人となる見込み。
5月の素案では「70代で認知症の人の割合を10年間で1割減らす」という数値目標を掲げていたが、発症した人が責められるなど懸念が指摘され、「参考値」に格下げしたようだ。
大綱では、認知症を「誰もがなりうる」として、予防については「認知症にならない」ではなく「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」と定義。
今後、認知症の発症や進行の仕組みを解明するため科学的な証拠を収集し、予防・診断・治療法の研究開発を進める。
認知症に関しては、下記の主要3点が予防に役立つ可能性があると示されている。
(1)運動不足の改善
(2)糖尿病や高血圧など生活習慣病の予防
(3)社会参加による社会的孤立の解消や役割の保持
大綱は高齢者が集える公民館などの「通いの場」の拡充を重要政策の一つに位置付け、
65歳以上の高齢者の参加率を4.9%(2017年度)から8%程度に増やすことを盛り込んだ。
これまでも交付金などで整備してきたが低迷しているため、市区町村向けに国が手引を作成するなど普及を促すようだ。
さらに「共生」を広げる新たな施策として、鉄道やバスなど一定の規模以上の公共交通事業者に対し、認知症の人を含む高齢者などへの対応や研修のあり方を含む計画の作成と取り組み状況の報告・公表を義務付ける。
安全運転の支援システムを搭載した自動車に限定して高齢者の運転を認める新制度の検討も進んでおり、大綱では年度内に同制度の方向性を決めると記載した。
成年後見制度の利用を促進するために、2021年度までに、家庭裁判所など関係機関同士の調整役を担う「中核機関」を全国の市区町村に新設するという。
大綱に盛り込むべきかどうかは別として、高齢者福祉・障害者福祉の相談現場を日々になっている小職からすれば、成年後見制度の普及・促進をすることよりも、成年後見制度を使わないでも済む家族をあげた備え・仕組み作りこそが重要であると考える。
成年後見制度を利用せざるを得ない人は、既に利用しているはずのところ、むしろ成年後見制度を利用せずに乗り切るべき方が周囲の専門家に促され安易に利用してしまって困った事態に陥っているケースを数多く見ている。
成年後見制度が悪い制度だということではない。それはそれで重要な社会制度であることは間違いない。
しかし、法定後見制度は、あくまで対策を講じられなかった方の“善後策”であって、その段階では、支え手となる家族の選択肢はほぼ無い。
もっとも重要なことは、老親とその家族が、「家族会議」という話し合いの場をきちんと設け、その場に精通した専門家も同席してもらい、今後家族が取り組むべき老親の財産管理・処分、さらにはその先の資産承継までを円満円滑に乗り切るための事前準備を重ねること。
これもある意味、大綱で謳う「予防」の中に概念的に入るのであれば、是非政府としても
「家族信託」「任意後見」「遺言」「生命保険」等の法律的な観点からの「予防」の必要性、家族で取り組むことの必要性・重要性を情報発信してほしい。
それこそが、空き家対策、所在不明土地対策、内需拡大への刺激策、社会保障費の抑制、争族トラブルの減少など、今叫ばれている社会問題への直接的・間接的なアプローチに繋がると小職が考える。