法務省は、8月29日、法務大臣の諮問機関である法制審議会の部会で、離婚後に父母双方に子どもの親権を認める、いわゆる「共同親権」の導入に関する民法改正要綱案のたたき台となる案を示した、とのこと。
親権の見直し論議の背景には、共同親権を導入する国で国際結婚して生まれた子を日本に連れ去る事件やハーグ条約の存在があるようだ。日本では、国境を越えた子の連れ去りを防ぐハーグ条約が2014年に発効しており、単独親権はこの条約に違反しているという指摘もあるためだ。
現行の民法では、離婚後の親権に関して、父母のどちらかしか親権を持てない。
日本では、裁判所が関与しない「協議離婚」が多いため、親権や養育費の支払いに関するしっかりとした合意がなされないまま離婚届を提出して離婚しまうケースが多い。
この単独親権という現行制度を見直し、「父母の双方または一方を親権者と定める」として、共同親権か単独親権かを選択できる仕組みとすることの議論に入ることになる。
現行の民法については、父母が離婚時に共同親権で一致できなかった際の取り扱いが論点の一つだった。
父母間の協議がまとまらない場合は、家庭裁判所が親子や父母の関係を考慮して親権者を指定できるようにし、また、親権が決まった後も事情が変われば裁判所の判断で変更できるようにする、というのが法務省の案。
家庭内暴力や虐待などが起きている事案も想定し、子の利益に関して「急迫の事情があるとき」は、離婚前であっても単独の親権を行使できるようにする意向だ。
また、共同親権を持つ父母のうちの一方を、子の日常の世話などをする「監護者」と決めることができ、監護者の判断は、他の親権者よりも優先される。ただ、教育・進学などには監護者ではない親権者も関わることができる。
離婚後の養育費を巡っては、父母間で取り決めの無いまま離婚したり、取り決めが守られていないケースが多く、問題視されている。
現在は、差押えを申立てるにも、家庭裁判所の調停調書や離婚協議公正証書が必要になるため、養育費を請求するのにもハードルが高い。そこで、養育費については、優先的に養育費を請求する「先取特権」を付与することで、調停や訴訟をすることなく、私文書などの「担保権の存在を証する文書」を提出することで差押えをすることができるため、養育する親がもう一方の親に請求しやすい仕組みとなる。また、父母が養育費に関する取り決めをせずに離婚した場合、最低限の経済的支援を請求できる「法定養育費制度」も検討する。
共同親権の導入は、ドメスティックバイオレンス(DV)などへの懸念から反対意見も根強く、法務省は、民法改正案を国会に提出する時期を示していない。離婚後も父母が納得して子育てに関わり、子も安心して過ごせる制度を設計できるかが焦点とされ、今後の議論次第では要綱案の内容が変わる可能性もありそうだ。