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空き家抑制策の記事について思うこと

10/2付読売新聞の朝刊トップ記事によると、国土交通省は、来年度において、空き家対策の一環として、主要都市やその周辺にある住宅エリアを対象に、高齢世帯のみが暮らす住宅などを子育て世帯向けの住宅や施設に再生するモデル事業に乗り出す、という。
都市部での空き家の増加を抑えるとともに、マイホームの建築費・購入価格が高騰する中で、一般的な子育て世帯が住宅を取得しやすくする狙いだ。

 

具体的には、国土交通省と参加自治体が対象エリアを選定し、親族宅への住み替えや高齢者施設への入所などに伴い自宅が空き家になる予定の高齢世帯や、既に空き家となっている建物の所有者に対し、国が補助金を出して、内外装のリフォームや水回りの修繕などを促す。また、空き家を購入者した買主がリフォームする費用も補助金の対象とするようだ。
改装した住宅は、住宅市場を通じて販売し、現役世代や子育て世帯向けの住宅のほか、託児所や集会施設、子育て支援施設、ワークスペースなどとして活用してもらうことを想定している。

 

空き家を減らす施策、今後も空き家を増やさない抑制策、これらは国策としてとても重要だ。
ただ、空き家抑制策を充実する方針であれば、譲渡所得税に関する「令和4年12月20日付東京国税局審理課長回答」は、早期に撤回、又は法改正をすべきであろう。

この国税局の回答は、簡単に言うと、次のような内容だ。
老親の存命中に「家族信託」の契約で、子世代が実家の管理を担い、空き家となればいつでも賃貸や売却できるように備えるという「家族信託」の典型的活用と言えるケース。
このようなケースにおいて、結果として老親の存命中には実家を売却することはしなかった(できなかった)ので、老親の死亡により信託契約が終了し、契約終了に伴って実家を承継した相続人たる子が売却した場合のこと。
本来、「相続空き家の3000万円控除」の要件を満たす空き家を相続人が売却したら、その譲渡益につき金3,000万円まで非課税になる。
しかし、親からの実質的な相続でありながら、信託契約の終了に伴う「信託財産の引継ぎ」という登記原因で子名義にした不動産の場合、不動産の譲渡益が発生しても「相続空き家の3000万円控除」が適用できず、譲渡益満額に対して譲渡所得税が課税されてしまうというものだ。

「家族信託」は、老親が入院・入所、住み替え等で空き家となった自宅をスムーズに処分できるようにする意図をもって実行するため、空き家対策・空き家抑制について大きな効果があるとされる。
それにもかかわらず、「家族信託」をしていたばかりに「相続空き家の3000万円控除」が使えないという税務負担のリスクを生じさせるのは、国策としての一貫性が無い。なんとも失当な税務回答と言える。

 

★相続空き家の3000万円控除と家族信託の関係についての詳細はこちら↓↓↓
相続空き家の3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項)について、信託契約の残余財産の帰属権利者も適用できるか

 

日刊紙の朝刊トップ記事になるくらい、空き家抑制策というのは重要な議論であるのだから、一刻も早く前述の国税局の回答が撤回されることを望む。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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