仕事関係

家族信託が節税・脱税スキームに活用されることへの警鐘

一般社団法人家族信託普及協会の代表理事として活動している中で
沢山の情報が入ってきます。

また、家族信託・民事信託に関する書籍や記事の中に書かれた内容について
それが本当に法律的・実務的・道義的に正しいのかどうかについての
お問合せを頂いたり、専門職と議論をすることも多いです。

そんな中で、最近では、『家族信託が相続税・贈与税等の節税に活用できる』
いうフレーズが多く聞かれます。

この情報は、必ずしも間違っているとは言えません。
『家族信託』という仕組みの使い方次第では、認知症等で意思能力が
低下・喪失した親の財産管理を子が担うだけでなく、
不動産の売却・購入・建設など資産の組換え・整理ができますので、
結果として将来の相続税の納税額を圧縮する効果を出せることは事実です。

しかし、≪家族信託=節税≫という短絡的なイメージの拡散には
危うさを感じます。

 

更には、『複層型信託』を活用して、信託受益権を
≪元本受益権≫と≪収益受益権≫に分解し、そこに
暦年贈与を絡ませることによって、将来の相続税評価を
圧倒的に縮小できるスキームもご紹介されています。

弊所でも『複層型信託』の導入のご相談・ご依頼があれば
勿論対応することは可能です。
しかしそれは、お客様にとって税務的に大きなリスクを伴うことを
十分に理解・納得頂く必要があります。
したがって、『家族信託を複層型信託にして相続税を圧縮しましょう』という
うたい文句で営業斡旋するような業者や士業についても
危うさを感じずにはいられません。

士業等の専門職であっても、一見理解しづらい『複層型信託』について
一般の方がどれほど正確に理解して実行しようとしているのか・・・。

 

また、家族信託を導入すれば、親の意思能力が低下・喪失しても
『暦年贈与』をたやすく実行できるという言い方をしている専門職もいます。
これは、専門職でありながら、信託法という法律をよく勉強せずに
誤解・曲解されていると言わざるを得ません。

親から財産管理を託された子(これを「受託者」と言います)は、
その親(これを「受益者」と言います)のために財産管理と財産給付を
担うのが原則となります。
つまり、受託者は、受益者のためにのみ財産管理と財産給付を
行う法律上の義務を負っているところ、親の意思表示が
難しくなったからといって、親に代わって受託者が
受益者以外の者(例えば孫)に毎年暦年贈与を実行していくことは、
例え親がそれを望んでいたとしても、受託者の「忠実義務違反」(信託法第30条)に
なると考えます。

(※信託を活用して“みなし贈与”を行うことで、実質的に暦年贈与を
遂行する手段はありますが、ここでは割愛します。)

 

家族信託が『節税策』『合法的脱税策』というようなレッテルを貼られ、
税務署からマークされたり、受託者による多額の脱税・横領事件が起きたり、
それを受けて信託法が法改正されたり・・・、というような事態になり、
高齢者・障がい者の財産管理や争族対策・空き家対策・親なき後問題対策など
本当に大きな大きな可能性のある『家族信託』の動きが抑制されることを
心から憂慮します・・・。

 

その意味でも、家族信託の活用策について正統派路線を貫く
一般社団法人家族信託普及協会の活動をもっともっと活発にすることと
ミヤタ自身の個々のコンサルティングもより精力的に取り組もうと思います。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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