商業登記・企業法務

自己株式の取得の意義

5月 1, 2010

自己株式はかつて「金庫株」と呼ばれ、その取得は原則禁止されていたものでしたが、現在ではその取得数や取得目的の制限はなく、取得は自由になっています。
自己株式を取得する意義としては、以下のようなものが代表的です。
1.株価対策
株価が企業の真実の価値に比べて不当に低く過小評価を受けている場合や、株式を過大に発行したために流通株式数が増大して、株価の形成に悪影響を及ぼすとともに配当コストの負担が増大した場合に、企業が自らの資金を用いて価格が低迷している自己株式を買い戻すことは、市場に流通する株式量が減少するので一株あたりの価値が上がり、それに応じて株価を上昇させる目的があります。
2.株式売却の受け皿
何らかの理由により株式が売却される場合、安定株主の層が薄くなるとすれば、発行会社ないしその経営者は経営基盤の安定が脅かされるとして危倶を抱くこともあるでしょう。その場合に会社が株式を買い取り、会社の運営を害したり会社乗っ取りを企てたりするような、会社にとって好ましくない者が株主になることを防止した上で、別の安定株主に引き取ってもらうこともできます。
3.機動的な企業再編
企業の競争力を強化するために合併・会社分割・株式移転・株式交換等の企業再編を行う際、企業再編に伴う新株発行に代えて会社の保有する自己株式を割り当てる方式を用いることにより、新株発行に伴う配当負担および株主管理コストの増加や、既存株主の株式価値の希釈化を回避しながら企業再編を機動的に行うことができます。
4.敵対的企業買収対策
敵対的企業買収が行われる前に自己株式を取得すれば、浮動株を吸収して安定株主の議決権の比率を引き上げることができ、敵対的株主の株式取得を困難にし、買収を断念させることが見込まれます。(ただし、敵対的株主が相当数の株式を取得している場合には、逆に敵対的株主が有利になる場合もあります。さらに、株式の時価総額自体が小さくなり買収されやすくなることもあります。)また、敵対的企業買収が具体的に実行された場合、対抗して自己株式を取得することにより株価を上昇させ、敵対的株主の資金負担を増加させ、議決権比率を引き下げることができます。
5.事業承継対策
相続税を払うのが困難な事業承継相続人(会社経営者の相続人)等から会社がその株式を買い取ることによって、会社のお金を相続人に移転することができ、結果相続税の納税に充てることが可能です。
6.少数株主の整理
株式が分散し少数株主が相当数存在する会社にとって、株主管理に手間がかかるとともに、機動的な経営判断を妨げたり経営が不安定になる要因になりかねません。そこで、特定の少数株主から随時株式を買い取っていくことで、分散した株式を整理し経営の安定を図ることが可能になります。

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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