商業登記・企業法務

有限責任事業組合(日本版LLP) その3 ≪運営要件と活用例≫

3月 30, 2017

【有限責任事業組合の運営要件】

(1)債権者保護規定の整備
a)組合契約書・財務諸表(貸借対照表・損益計算書等)の開示義務
b)組合財産の分配制限、債務超過時の利益分配の禁止

《解 説》
LLPは有限責任制ではあるが、株式会社と違い、登記事項に資本金に相当する記載がない。
そこで、取引相手が安心してLLPと取引を始められるように、LLPへの透明性を高め、取引の危険性を事前に判断しやすくする規定を設けるとともに、組合財産を勝手に減少させるような利益分配を禁止した。

(2)共同事業性
業務執行への組合員全員の参加義務

《解 説》
LLPの意思決定は、原則組合員全員の同意で行い、全員が業務執行に参加する必要がある。
ただし、業務執行の一部のみを他に委任し、業務を各自が分担することはできる。
つまり、業務執行の全部を他の組合員に委任して自らは何も業務執行をしないことを禁止している。
これを認めてしまうと、資金のみを出資する投資家が組合員となり、資産運用のプロとともにLLPを設立して、投資関係業務を行うLLPの成立を許してしまうことになる。
LLPはあくまで、それぞれの専門分野を生かした合弁事業や産学連携といった共同事業を活性化させるための制度なので、投資ファンドなどで利用される匿名組合・投資事業有限責任事業組合などのように投資関係事業へ活用することは、立法の趣旨に反するからである。

 

【有限責任事業組合の立ち上げの流れ】

組合員による組合契約の作成
↓ LLPの構成員(=組合員)は、組織の基本事項を契約書に記載し、全員で署名又は記名押印↓ する。
↓ 《全員の印鑑証明書必要》
↓ ※ 公証人による認証不要

出資金の払込・現物出資の給付
↓ 組合契約書に基づく出資の全部を履行をする。
↓ 《金融機関の残高証明書や現物出資引受書が必要》



組合契約登記の申請
↓ 名称、事務所の所在地、事業内容、組合員の氏名(名称)・住所、存続期間等を登記する。
↓ 《事業規模にかかわらず、一律登録免許税6万円必要》
↓ ※ 官公庁の許認可不要

組合契約の登記の完了
組合成立日における貸借対照表の作成

※設立まで約10-14日程度で立ち上げが可能。

 

【有限責任事業組合の活用例】
(1)高度サービス産業:各専門分野の人材が集結しソフトウエア開発や映画制作
(2)中小企業同士の事業連携:高度な専門技術を持つ中小企業が連携して工業部品を開発・製造することで、下請けから脱却し大手企業に対抗
(3)産学連携:製薬会社と大学教授との連携による新薬開発の大学発ベンチャー
(4)大企業同士の共同研究開発:大手半導体メーカーが次世代技術を共同研究開発
(5)企業からのスピンオフ・ベンチャー:大手電機メーカーから独立(スピンオフ)した研究チームが親元企業からの出資を経て共同研究開発
(6)産業再編:石油会社同士が生産コストの低減に向け、石油精製設備の効率的利用のための共同設備の建設・利用
(7)物流産業の効率化:農業分野における農家・食品流通業者・加工業者等が無農薬野菜・加工食品の流通・加工・販売のネットワークを構築

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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