一度作成した遺言も、内容を変えたくなったときは、遺言者の自由な意思によっていつでもその全部、または一部を取消し、撤回することができ、あるいは新しく作成し直すことができます。
公正証書遺言を自筆証書遺言によって撤回することも可能です。
また、複数の遺言書があり、それぞれの遺言内容が矛盾する場合は、最新の遺言書の内容が有効とされ、それと矛盾する過去の遺言書の記載については撤回されたものとみなされます。
なお、誤解のないようにご注意頂きたいのは、遺言書の内容の一部が抵触等により撤回されたと扱われても、その古い遺言書全てが撤回され無効となる訳ではありません。
あくまで、抵触や破棄された“部分”に限るということです。
一度作成した遺言を取消し・撤回したいときは、以下のような方法があります。
(1)手書きの遺言書を破棄する
自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合は、自ら遺言書を破ったり、消却すれば、遺言の全部の取消しになります。
ただし、公正証書遺言は、原本が公証人役場に保管されていますので、手元にある正本や謄本を破棄しても遺言を撤回したことにはなりません。
なお、自筆の遺言書の記載文言を元の文言が判読不能なまでに抹消された場合も、この破棄にあたります。
ただし、元の文言が判読可能である場合には、民法968条第2項に定める訂正方法に則る必要がありますので、その定めに従っていない場合には、元の遺言内容が有効とみなされてしまいますので注意が必要です。
(2)手書きの遺言書に直接訂正を加える
直接訂正を加える場合は、訂正する個所を二本線で消し、その横に訂正後の文を記入します。さらに訂正個所に印鑑を押し、欄外に「○行目、○字削除、○字加入」と記載し、署名します。
ただし、訂正に不備があると訂正した行為が無効になってしまう可能性もあるので、初めから書き直す方が無難だといえます。
(3)新たな遺言を作成する(抵触遺言)
遺言の大原則として、日付の新しい遺言書の内容が優先されます。
したがいまして、遺言内容が矛盾(抵触)する新たな遺言書を作成することで以前にした遺言は取り消されたことになります。
新たに作成した遺言書が以前の遺言書の一部とだけ内容が抵触しているときは、その抵触した部分のみ新しい遺言どおりになり、それ以外の部分は古い日付の遺言が引き続き有効となります。
(4)以前作成した遺言書を取り消す旨の記載を新しい遺言書にする
「平成○年×月△日作成の遺言は全部取消す」と記載した新しい遺言書を作成する。
遺言の一部だけ取り消したいときは「平成○年×月△日付遺言中の第●条の部分の遺言は取消す」というような内容の遺言書を作成することで、遺言の一部を取り消すことができます。
(5)遺言対象財産を処分・消費・破棄(抵触行為)
遺言者が、遺言書作成後に、遺言と矛盾(抵触)する生前処分・消費・破棄その他の法律行為をしたときは、その部分の遺言は撤回されたとみなされます。
具体的には、売却による処分、解体、生前贈与、寄付等が挙げられます。
遺言が複数存在したとしても、遺言内容が矛盾しない場合は、すべての遺言が有効になります。
また、自筆証書遺言や公正証書遺言といった遺言方式の違いによる優劣関係はありません。
しかし、遺言を複数残しておくと、古い日付のものしか発見してもらえないということもありえますので、新しく遺言書を作成したときは、不要な遺言書は破棄しておく方が良いでしょう。