相続登記・不動産登記(売買、贈与、抵当権設定・抹消など)

遺言執行者に「相続させる」旨の遺言に基づく相続登記の権限付与

7月 12, 2022

 

2019年7月の民法改正により「相続させる」旨の遺言についての取り扱いが変更となりました。

下記に分かりやすくご説明させていただきます。

ポイント

  • 民法改正により遺言執行者の権限が明確化
  • 遺言執行者は特定財産承継遺言による相続登記もできる!
  • 019年7月1日の施行日以降に作成された遺言にのみ適用

 

民法改正により遺言執行者の権限が明確化

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされています(民法第1012条第1項)。
しかし、一般的に遺言執行者の権限は、各々の遺言の内容により具体的に定められており、第三者にとっては明らかでないことが問題視されていました。
そこで、2019年の民法改正により、遺言執行者の権限がより明確に規定されました。

遺言執行者は特定財産承継遺言による相続登記もできる!

2019年改正民法により、“特定の財産を特定の法定相続人に相続させる旨”の遺言のことを「特定財産承継遺言」と呼ぶことになりました(第1014条)。
例えば、「遺言者は、下記の不動産を長男〇〇〇に相続させる。」というような条項です。

従来は、登記実務上、この「相続させる」旨の内容の遺言があった場合、遺言執行者は遺言の執行として不動産の所有権移転の登記手続をする義務も権利も有しないとされていました(最判平7.1.24)。
なぜなら、この場合、登記の原因は「相続」となり、財産を承継した相続人が単独で登記手続を行うことができるため、遺言執行者の職務は顕在化していないからです。

また、特定財産承継遺言によって不動産を取得した者は、登記なくして第三者に対抗できるとされていたため、相続登記が放置されてしまうことも問題とされていました。

このような経緯があり、2019年の民法改正により、相続による権利の承継は、自己の相続分を超える部分については登記を備えなければ第三者に対抗することができないとされました(民法第899条の2)。
相続登記を促進し、所有者不明土地問題や空家問題を解消することが狙いです。

それに伴い、民法第1014条第2項が新設され、遺言執行者の権限として、相続登記を申請する権限が付与されました。
なお、特定財産承継遺言により、相続させると指定された相続人自身も単独で相続登記の申請をすることができることは従来通りです。

2019年7月1日の施行日以降に作成された遺言にのみ適用

遺言執行者の登記権限に関する規定は、2019年7月1日の施行日以降に作成された遺言についてのみ適用されます。
そのため、遺言書がいつ作られたのかを確認することが重要です。

また、遺言執行者の権限について、遺言で別段の定めを設けることもでき(民法第1014条第4項)、遺言者の意思が尊重されています。

相続が発生し、実際に遺言を執行する場面になりましたら、遺言書の作成日付はもちろん、遺言執行者の権限についてどのような記載がされているかをしっかり確認しましょう。

参考条文:改正民法

(共同相続における権利の承継の対抗要件)

第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

(遺言執行者の権利義務)

第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

(特定財産に関する遺言の執行)

第1014条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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