家族信託 ,

『生前契約書』と家族信託の関係性

10月 16, 2018

『生前契約書』をお勧めする書籍が何冊も出版されています。

それらの書籍によれば、『生前契約書』とは、主に「財産管理等委任契約書」「任意後見契約書」「死後事務委任契約書」を指し、 更には、契約書ではないですが、延命治療等に関して予め意思表示をしておく「尊厳死宣言書」もそこに加わります。
また、死後の資産承継・祭祀の承継等について規定する「遺言」も『生前契約書』とセットで検討・作成すべきものとされています。

今回は、この『生前契約書』について触れてみたいと思います。

 

「遺言書」は、主に自分の死後の財産の承継者を指定しておくもので、 遺言を作ったからといって、自分の老後が安泰になる訳ではありません。

超高齢社会の今日においては、特に60代、70代、80代、90代の各世代の方にとって、これからまだまだ先の長い人生(老後)を どのように過ごすか、ということについては、遺言とは別に『生前契約書』を検討・作成しておくことで 今後の生活の不安を解消できる可能性があります。

具体的な各種の『生前契約書』等について、ご説明と検討をしましょう。

 

 

 

 

 

◆「財産管理等委任契約書」

自分の体が思うように動かなくなった場合や入院・入所をした場合に備え、自分の財産管理を信頼できる者に今から任せるための契約です。
しかし、この委任契約書があっても、金融機関の窓口で定期預金の解約払戻手続きをしたり株式・投資信託等を売却・解約したりする手続きにおいては、 結局所有者本人の意思確認手続きは省略できません。
従いまして、認知症や重病等で所有者本人の意思を確認できないような事態になれば、この委任契約は実質的に無力になってしまいます。
これが委任契約の実務上の限界といえます。

◆「任意後見契約書」

自分が認知症や大病、事故等で判断能力が低下・喪失した場合に備えて、財産管理と法律行為の代理を任せる人(=後見人)を予め選んでおく契約です。
この契約をしても、すぐに後見人に就任するのではなく、将来的に能力が低下した際に家庭裁判所の手続きを経て就任してもらう仕組みですので、あくまで将来のもしもに備えた“保険”としての意味合いを持つものです。
また、法定後見制度とは違い、自分が選んだ信頼できる者が確実に後見人に就任できる点がメリットと言えます。
ただし、任意後見制度も成年後見制度の一形態になりますので、3ヶ月に1回程度の任意後見監督人への報告事務の負担、任意後見監督人への毎月1~2万円前後の報酬が発生する経済的負担、後見人としてできることが限られているという法律行為の制約があることを充分に理解しておく必要があります。
また、後見人になる方にとっては、自分の親や家族の財産であっても、他人の財産を管理する重責とその覚悟を充分に持っておかなければならず、実際にこんなに手間や負担がかかるとは思わなかった・・・という声も多く聞かれます。

◆「死後事務委任契約書」

自分が亡くなった後において、葬儀・納骨・永代供養等の手続き、親族・親交のあった方々への訃報等の連絡、入院・入所先の退去手続き、社会保険手続き等を総称して「死後事務」といいますが、 これらの諸手続きを信頼できる方に予め任せておく契約です。
前述の「財産管理等委任契約」は、あくまで生前中の財産管理を任せる契約ですし、死後の財産に関する希望は、「遺言」に記載することになりますが、死後における財産以外についての手続き等は、 この「死後事務委任契約」で任せることになります。
ただし、そもそもこの死後事務は、本来は家族・親族であれば、委任を受けなくても当然に対応すべき手続きとなりますので、この「死後事務委任契約」が主として効果を発揮するのは、身寄りのない方や家族・親族はいるけれど何らかの事情で頼みたくない場合に、家族・親族以外の第三者(主として司法書士・弁護士等の法律専門職やこれらを業務とするNPO法人など)に任せておきたいケースです。

◆「尊厳死宣言書」

「尊厳死」とは、もはや回復の見こみがないような重い病状や脳死の状態となった際に、人工呼吸器や人工心肺装置などの生命維持装置によって
延命治療をすることをせず、医療の手を加えずに自然死を待つようなことをいいます。
「尊厳死宣言書」は、この尊厳死を希望する旨を意思表示する書面です。

★「家族信託契約書」

まだ世間的にも専門職の間にも、正確に普及・認識されていない『家族信託』という仕組みですが、 将来に備えるという点で、実は『生前契約』の最も主役となるべき契約が「家族信託契約書」といえます。
それは、「財産管理等委任契約書」の実務上の限界を家族信託でまかなえること、後見制度の代用として家族信託を活用することで 「任意後見契約書」の事務的負担・経済的負担・法律行為の制約を避けた軽負担・ローコストかつ柔軟な財産管理が実現できること、 「死後事務委任契約書」はそれが無くても家族・親族の立場で実質的にまかえることが多いこと、等の理由から、『生前契約』の中で最も 多くのニーズに効果的に対応できるからです

以上をまとめますと、遺言書は、死後の財産承継等の指定しかできないので、これからの老後を安心平穏に過ごすための備えとして
次の優先順位に従って備えを検討・実行しておくのが良いでしょう。
もちろん、これら全てに精通した法律専門職に相談しないと、対策が中途半端になったり、優先順位が間違ってしまうことがありますので ご注意ください。

・優先順位1:遺言+家族信託契約書
・優先順位2:任意後見契約書
・優先順位3:死後事務委任契約書
・優先順位4:尊厳死宣言

なお、これらの『生前契約』は、作成者の意思を明確にし、偽造・変造を防ぎ、紛失時には再発行もできるようにするため、 全て公正証書にし現在の本人の意思を確実に残しておくことがお勧めです。

 

遺言・家族信託・任意後見・死後事務委任・尊厳死宣言等に関するご相談がございましたら、お気軽に弊所にご相談下さいませ。

 

  • この記事を書いた人

宮田浩志(司法書士)

宮田総合法務事務所 代表司法書士

後見人等に多数就任中の経験を活かし、家族信託・遺言・後見等の仕組みを活用した「老後対策」「争族対策」「親なき後問題」について全国からの相談が後を絶たない。

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