超高齢社会を迎えている日本において、親の老後は何十年と長きにわたります。
老親の認知症発症による判断能力の喪失や相続発生により、本人や家族が困らないように、元気な今のうちにやっておくべき‶生前対策“のベスト5をご紹介します。
特に、コロナ禍において、元気な高齢者であっても、入所・入院されている方は、外出も面会もままならない状態が今後しばらくは続きそうですので、思い描いた対策がスムーズに実行できるとは限りません。
もしもに備えた対策の初動は、早めにすることが肝心となりますので、是非この記事をご参考にして頂きたいです。
第1位:家族信託
【理由1】
まずは親自身の老後に備えることが一番大切です。親世代と子世代が一体となって、親の安心・豊かな老後生活の実現を目指しつつ、その先に「相続」があるという認識が重要です。
長期間にわたる親の老後について、親も親を支える家族も安心できる備え、なおかつ支える家族も疲弊しない軽負担の仕組みが理想的です。
経済的・事務的な負担の大きい成年後見制度に代えて、柔軟かつ軽負担の財産管理・生活サポートを実現するには「家族信託」がベストと言えます。
【理由2】
信託契約で子世代に管理を任せた財産(=信託財産)については、自分亡き後の財産の承継先まで信託契約の中で指定ができます(これを「遺言代用機能」と言います)。
さらに、資産承継者の指定だけでなく、その承継者のための財産管理まで同じ信託契約で対応できます。
たとえば、老夫婦の場合、夫の生前の財産管理だけでなく、夫亡き後の高齢の妻の財産管理・生活サポートも万全にする仕組みが構築できます。
また、両親亡き後に障害のある子・引きこもりの子・浪費癖のある子などが遺される場合に支える仕組みとしても活用できます。
第2位:遺言
【理由1】
家族信託では、全財産を網羅できないので、信託財産以外の財産については、遺言において資産承継先を指定することで、全財産の資産承継先を漏れなく指定できます。
これにより、法定相続人全員による遺産分割協議の余地を排除できますので、相続人間に確執があっても争族による遺産凍結の事態を回避できます。あるいは相続人の一部に判断能力が著しく低下している方がいても、その方に成年後見人を就けなくても済みますので、財産の承継がスムーズにできます。
【理由2】
祭祀承継者(葬儀の喪主や墓守などを担う方)の指定など、遺言でなければ指定できないことがあります。
第3位:生命保険
【理由1】
遺される家族(遺族)の生活保障として、あるいは相続税の納税資金として、資産の増幅効果(支払った保険料以上の保険金を受け取れる効果)を活かしつつ、相続発生後速やかにスムーズに受け取れるお金として遺すことができます。
【理由2】
相続税の申告において、保険金の非課税枠(死亡保険金は”みなし相続財産“として課税対象になりますが、法定相続人一人につき金500万円の非課税枠があります)が利用できますので、現預金のまま遺産として遺すよりも、より多くの金融資産を遺すことが可能となります。
【理由3】
生命保険の死亡保険金は、「遺産」ではなく、受取人固有の権利として、遺産分割協議や遺留分侵害額請求の対象財産から除かれます。
したがいまして、遺留分請求を受ける側を保険金の受取人にすることで、遺留分侵害額請求への支払原資に充てる用途としても重宝します。
第4位:生前贈与
【理由1】
老後の資金はきちんと確保した上で、余剰分があれば、住居費・教育費など何かとお金がかかる子世代・孫世代に活きたお金として渡すことができます。
【理由2】
将来の遺産を減らす効果がありますの、相続税対策や遺留分対策になり得ます。
ただし、相続開始前3年以内に贈与された財産は、相続税の課税対象財産にされてしまいますし、相続開始前10年以内に相続人に対して行われた生前贈与は、「特別受益」として遺産分割や遺留分の対象財産に組み戻されてしまうため、生前贈与は早めの実行がおススメです。
【理由3】
老親名義の不動産は、親の判断能力喪失により売却できなくなります。また、老親名義の預貯金は、親の判断能力喪失により、窓口での払戻しや振込みができなくなります。これを俗に‶資産凍結“や‶預金凍結”と言ったりしますが、親の財産でありながら、親自身のために自由に使えなくなります。
そこで、敢えて親から子に贈与で財産を渡すことで、資産凍結を回避することができます。もちろん、贈与税の課税に気を付けなければなりませんので、暦年贈与の基礎控除枠である金110万円以内の贈与にするとか、相続時精算課税制度を活用するといった工夫も必要です。子に一旦贈与した上で、その子は、親の介護費用等で資金が必要になれば、贈与財産から扶養義務に基づく給付として支出する限りにおいては、子が親の生活資金等を支出することについては税務上全く問題になりません。親子間の信頼関係があれば、敢えて生前贈与することも選択肢になり得ます。
第5位:任意後見
【理由1】
任意後見契約は、信頼できる相手(家族や法律専門職)に対し、自分の判断能力が低下・喪失したときの財産管理等をあらかじめ任せておく契約です。
親が元気なうちにしっかり備えておくという方策としては、家族信託の方が優れていると言えますが、下記①②のようなケースでは、家族信託では対応しきれない(成年後見制度を利用せざるを得ない)ので、その場合には、信頼できる人に確実に後見人になってもらえるように任意後見を検討する必要があるでしょう。
①親を支える子供同士の関係性が悪く、将来の親の介護方針など(いわゆる“身上保護”・“身上監護”)について方針が割れてしまうリスクがある場合
②信託契約後に親の兄弟(おじ・おば)に相続が発生し、判断能力が著しく低下した親が法定相続人として遺産分割協議に巻き込まれる場合
【理由2】
家族信託で信頼できる身内に老後を託しても、もしその身内が先に倒れた場合に次に託せる相手がいないケース(例えば子供が一人っ子のケース)では、その身内が倒れた時点で家族信託を終了せざるを得ません。
その際、もし親本人の判断能力が著しく低下していれば、やはり成年後見制度を利用する必要性が出てくるでしょう。その万が一の事態に備え、いざという時に信頼できる法律専門職と任意後見契約を交わしておくことは“保険”になるでしょう(法定後見の場合、動きの悪い弁護士や司法書士を家庭裁判所が選任してしまうリスクがあります)。