「信託宣言」あるいは「自己信託」とは、委託者自らを受託者として信託を設定し、受益者のために自己の財産を管理・処分・交付等をする信託のことをいいます(信託法第3条第3項)。
旧信託法においては、受託者は委託者以外の者であることが必要でしたが、平成19年の法改正で新たな信託の方法として認められた信託です。
◆信託行為
委託者が一定の目的に従って自己の有する一定の財産の管理・処分・交付すべき旨の意思表示を、公正証書その他の書面又は電磁的記録において意思表示をします。
但し、公正証書その他の書面又は電磁的記録には、信託目的や信託財産の特定等の必要事項を記載又は記録しなければなりません。
◆メリットとデメリット
委託者は、委託者自身の財産でありながら、信託行為により特定した財産(=信託財産)と固有財産とは切り離されることになりますので、委託者自身の倒産による財産の散逸の危険を避けつつ、財産の管理は自ら受託者となって行うことで、適切な財産の管理を行うことが可能になります。
信託財産については、登記または登録をしなければ権利の取得、喪失または変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記または登録をしなければなりません。
その反面、債権者からの強制執行を不当に免脱にすることに利用したり、自己信託自体が詐害行為とみなされる(=詐害信託と呼ばれます)恐れがあり、また、他人の関与を必要としませんので、他人や債権者からしてみれば不明瞭な点が多くなってしまいます。
自己信託による詐害行為等を防止し債権者を保護するために、詐害信託の取消し手続きが合理化され、信託財産に対して強制執行等も認められていますので、自己信託をする場合は、委託者自身の債務状況等も留意する必要があるでしょう。
また、受託者が受益権の全部を固有財産で保有する状態が1年間継続した場合は信託が終了してしまいます(信託法第163条第2号)。
◆自己信託の具体的な利用例
①事業承継のための株式信託として
中小企業の自社株を後継者たる子に生前贈与しつつも、現経営者たる親の手元に経営権(株式の議決権)を留保するための仕組みとして活用できます。
いわば、「親から子への生前贈与」+「子から親への“逆”信託」をいっぺんにやるというイメージです。
具体的な事例は、こちらへ
②親なき後のための福祉型信託として
親が障害を抱える子に対して財産を贈与したとしても、子自身がその財産を管理・保全できない場合、「自己信託」を設定して、生前に子に財産を渡した上で(みなし贈与)、引き続き親が子のために財産を管理する仕組みを構築できます。
副次的な効果として、親自身の破産という危険から財産を回避することもできることになります。
このように、障害のある子を持つ家庭の「親なき後問題」や認知症・大病等で判断能力の無い配偶者を支える「配偶者(伴侶)なき後問題」への対応策として有効な手段となり得ます。
さらに、自己信託の設計次第では、判断能力の無い受益者(障害者・認知症高齢者)が死亡した時点で残った財産(信託財産の残余財産)について、承継者の指定も可能になります。