一般的には、個人間における無償での財産の譲渡(例:太郎さんが持っているものを“ただ”で花子さんにあげる行為)に対して、贈与税の課税がなされるイメージですが、必ずしもプラスの財産を移動だけが贈与税の課税対象になる訳ではありません。
「贈与契約」に基づく財産の移動だけではなく、実質的に無償で経済的利益を得る場合にも、贈与とみなされ(これを「みなし贈与」と言う。)、贈与税の課税対象になります(相続税法第8条)。
「みなし贈与」とされる典型的な3つのケースをご紹介します。
「みなし贈与」とされる典型的な3つのケース
1.債務引受の場合
たとえば、太郎さんが金500万円の借金をしている場合(太郎さんが「債務者」となります)、花子さんが「債務引受」をして、今後この金500万円の返済義務を花子さんが負う約束をすると、太郎さんは金500万円を返済する必要が無くなります。
つまり、太郎さんは実質的に金500万円の経済的利益を得たことになります。
この場合、太郎さんは花子さんから金500万円を贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されます。
2.債務免除の場合
たとえば、太郎さんが金500万円の借金をしている場合、貸主(債権者)の金次郎さんが「債務免除」(「債権の放棄」も同じ意味です)をし、借金を“ちゃら”にしてくれると、やはり太郎さんは金500万円を返済する必要が無くなります。
つまり、太郎さんは実質的に金500万円の経済的利益を得たことになります。
3.第三者弁済(債務の“肩代わり”)
たとえば、太郎さんが金500万円の借金をしている場合、花子さんが太郎さんに代わって金500万円を返済する(肩代わりする)と、やはり太郎さんは金500万円を返済する必要が無くなります。ここで、花子さんは太郎さんに「求償権」(太郎さんに代わって返済してあげた金500万円の返済を求めること)を持つことになりますが、この求償権を花子さんが放棄すれば、太郎さんは実質的に金500万円の経済的利益を得たことになります。
個人の債務(消極財産)を消滅させる行為も、贈与税の課税対象!
上記1~3のような個人の債務(消極財産)を消滅させる行為も、税法上は、プラスの財産の贈与を受けるのと同じように扱い、無償で経済的利益を受けた人に対しては贈与税が課税されます。
贈与税の課税対象とならない場合
個人が、債務引受・債務免除・第三者弁済等による利益を受けた場合であっても、贈与税の課税対象とならないケースがあります。
それは、債務者が経済的な余裕がなく借金を返済することができない状態において、
- 債権者から債務の免除を受けた
- 債務者の扶養義務者に債務引受や弁済をしてもらった
このいずれかの場合はその借金の返済をすることが困難である部分の金額については、贈与の課税対象から外されます(相続税法第8条但書)。
結論
親が子のカードローンや住宅ローンを肩代わりしてあげるケースは、よくある話ですが、債務者たる子がローンの返済に困窮しているという状況であれば、扶養義務に基づく資金援助として課税のリスクはありません。
しかし、あまり多くない給料で頑張っている息子・娘家族に対して、資金に余裕のある親側が単に応援したいという趣旨で住宅ローンを肩代わりすることは、税務上、ローン相当額を親から子に生前贈与したものとして課税対象になりますのでご注意ください!
参考条文:相続税法
第8条
対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合においては、当該債務の免除、引受け又は弁済があつた時において、当該債務の免除、引受け又は弁済による利益を受けた者が、当該債務の免除、引受け又は弁済に係る債務の金額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該債務の免除、引受け又は弁済をした者から贈与(当該債務の免除、引受け又は弁済が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該債務の免除、引受け又は弁済が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。
一 債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、当該債務の全部又は一部の免除を受けたとき。
二 債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その債務者の扶養義務者によつて当該債務の全部又は一部の引受け又は弁済がなされたとき。